東京地方裁判所 昭和61年(ワ)5911号 判決 1990年2月28日
主文
一 被告タキヨ商事株式会社は、被告有限会社タキヨテキスタイルと連帯して、原告ザ・ウォルト・ディズニー・カンパニーに対し、二五四万〇八〇七円、原告ウォルト・ディズニー・エンタプライズ株式会社に対し、一六九万三八七一円及びこれらに対する昭和六一年五月三一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告有限会社タキヨテキスタイルは、二五四万〇八〇七円の範囲で被告タキヨ商事株式会社と連帯して、原告ザ・ウォルト・ディズニー・カンパニーに対し、四八〇万円、一六九万三八七一円の範囲で被告タキヨ商事株式会社と連帯して、原告ウォルト・ディズニー・エンタプライズ株式会社に対し、三二〇万円及びこれらに対する昭和六一年五月三〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告株式会社ダイキは、原告ザ・ウォルト・ディズニー・カンパニーに対し、二三四万九二一六円、原告ウォルト・ディズニー・エンタプライズ株式会社に対し、一五六万六一四四円及びこれらに対する昭和六一年五月二九日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告テキスタイル商事株式会社は、原告ザ・ウォルト・ディズニー・カンパニーに対し、三〇〇万円、原告ウォルト・ディズニー・エンタプライズ株式会社に対し、二〇〇万円及びこれらに対する昭和六一年五月三〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
五 原告らのその余の請求を棄却する。
六 訴訟費用は、これを一〇分し、その一ずつを原告ら、その三ずつを被告タキヨ商事株式会社及び同株式会社ダイキ、その一ずつを同有限会社タキヨテキスタイル及び同テキスタイル商事株式会社の各負担とする。
七 この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告タキヨ商事株式会社及び同有限会社タキヨテキスタイルは、連帯して、原告ザ・ウォルト・ディズニー・カンパニーに対し、四八〇万円、同ウォルト・ディズニー・エンタプライズ株式会社に対し、三二〇万円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告株式会社ダイキは、原告ザ・ウォルト・ディズニー・カンパニーに対し、六〇〇万円、同ウォルト・ディズニー・エンタプライズ株式会社に対し、四〇〇万円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被告テキスタイル商事株式会社は、原告ザ・ウォルト・ディズニー・カンパニーに対し、三〇〇万円、同ウォルト・ディズニー・エンタプライズ株式会社に対し、二〇〇万円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は、被告らの負担とする。
5 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する被告タキヨ商事株式会社、同株式会社ダイキ及び同テキスタイル商事株式会社の答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1(一) 原告ザ・ウォルト・ディズニー・カンパニー(以下「原告カンパニー」という。)は、アメリカ合衆国において、別紙著作権目録(一)ないし(三)記載の各著作権(以下その著作物を順次「本件著作物(一)」ないし「本件著作物(三)」、併せて「本件著作物」という。)を有しているが、本件著作物は、万国著作権条約により、わが国においても著作物として保護されるので、原告カンパニーは、わが国においても、本件著作物について著作権(以下「本件著作権」という。)を有する。
(二) 本件著作物に登場する「ミッキーマウス」、「ミニーマウス」、「ドナルド・ダック」、「グーフィー」の各キャラクター(以下「本件キャラクター」という。)は、それぞれ本件著作物の中においてさまざまな姿態で表現されているが、いずれも共通した独自の性格及び特徴をもって表現されているため、その性格及び特徴が特定の表現を越えた視覚的表現を有するに至っており、そこに著作者の思想や意図が具現されているものと解される。したがって、本件キャラクターと同一又は類似の図柄をティシャツ等に表現する行為は、本件著作物の複製に当たるものというべきである。
2(一) 原告カンパニーは、本件キャラクターについて、その著名性を背景に世界に先駆けて商品化事業を創始し、世界各国の業者に本件キャラクターの使用を許諾し、管理してきた。
(二) 原告カンパニーは、戦後日本国内において、本件キャラクターの使用許諾を行い、その商品化事業を展開してきたが、事業の隆盛化に伴い、昭和三四年七月二四日、原告カンパニーが中心となって原告ウォルト・ディズニー・エンタプライズ株式会社(以下「原告エンタプライズ」という。)を設立し、原告エンタプライズに対し、本件キャラクターの使用権を許諾するとともに、その再使用許諾権をも許諾し、以後、原告エンタプライズは、再使用許諾を行って商品化事業を展開し、昭和五八年当時には、わが国の八〇社を超える企業に対し、本件キャラクターの再使用許諾をしていた。
(三) したがって、本件キャラクター及び「MICKEY MOUSE」の表示(以下「原告表示」という。)は、昭和五八年当時、既に、原告カンパニー及び原告エンタプライズの商品表示及び営業表示として周知のものとなっていた。
3(一) 被告タキヨ商事株式会社(以下「被告タキヨ商事」という。)及び被告有限会社タキヨテキスタイル(以下「被告タキヨテキスタイル」という。)は、共議のうえ、昭和五八年一月ころから昭和六〇年八月ころまでの間に、被告株式会社ダイキ(以下「被告ダイキ」という。)及び被告テキスタイル商事株式会社(以下「被告テキスタイル商事」という。)の委託を受けて、衣類八万二二五〇枚に、一枚につき七〇円の加工代金で本件キャラクターの視覚的表現又はその名称である別紙標章目録(1)ないし(14)記載の標章(以下「本件標章」という。)をプリント加工し、また、渡辺商店等に対し、自ら本件標章を付した衣類一万五七七九枚を一枚につき五二〇円で販売した。
(二) 被告ダイキは、昭和五八年一月ころから同六〇年八月ころまでの間に、被告テキスタイル商事等に対し、本件標章を付した衣類一〇万八七六〇枚を、一枚につき六〇〇円で販売した。
(三) 被告テキスタイル商事は、昭和五八年一月ころから昭和六〇円八月ころまでの間に、被告ダイキから、本件標章を付した衣類二万六四三四枚を購入し、また、被告タキヨ商事等に委託して、本件標章を付した衣類一万五二九四枚を製造し、サンビアレ等に対し、右衣料合計四万一七二八枚を一枚につき六〇〇円で販売した。
4 被告らの右行為は、本件著作物の複製に当たる。また、本件標章は、原告表示に類似し、被告らの右行為は、原告らの商品及び営業上の活動と混同せしめるものであって、原告らの営業上の利益を害している。
5(一) 被告らは、故意又は過失により、本件著作権を侵害するとともに、不正競争防止法一条一項一号及び二号に該当する行為によって、原告らの営業上の利益を害したものであるから、原告らは、被告らに対し、被告らが右侵害行為により受けた利益の額を損害の額として主張することができるところ、その利益の額は、次のとおりである。
(1) 被告タキヨ商事及び同タキヨテキスタイルが右侵害行為により受けた利益の額は、プリント加工一枚当たり約七〇円、販売一枚当たり一九二円である。その総額は、約七〇円に衣類の枚数八万二二五〇を乗じた額の範囲内である五七五万円と、一九二円に衣類の枚数一万五七七九を乗じた額の範囲内である三〇〇万円との合計額であって、八〇〇万円を下らない。
(2) 被告ダイキが右侵害行為により受けた利益の額は、一枚当たり約三〇〇円である。その総額は、約三〇〇円に衣類の枚数一〇万八七六〇を乗じた約三〇〇〇万円であって、請求額一〇〇〇万円を大きく上回っている。
(3) 被告テキスタイル商事が右侵害行為により受けた利益は、被告ダイキからの購入分一枚当たり一五〇円、その余の分一枚当たり三〇〇円である。その総額は、一五〇円に衣類の枚数二万六四三四を乗じた約三九〇万円と、三〇〇円に衣類の枚数一万五二九四を乗じた約四五〇万円との合計額であって、請求額五〇〇万円を大きく上回っている。
(二) 仮に右主張が理由がないとしても、原告らは、原告表示の使用に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができるところ、右原告表示の使用に対し通常受けるべき金銭の額は、被告タキヨ商事及び同タキヨテキスタイルに対する関係では五〇〇万円、被告ダイキに対する関係では一〇〇〇万円、被告テキスタイル商事に対する関係では五〇〇万円を下回ることはない。すなわち、原告らは、訴外亀岡株式会社に対し、同訴外会社が製造販売する衣類に原告表示を使用することを許諾してきたが、そのライセンス料は、昭和五八年二月一日から同五九年一月三一日までの間が、契約一時金八〇〇万円、ランニングロイヤルティ出荷額の六パーセント(最低保証額四〇〇〇万円)、同年二月一日から同六〇年一月三一日までの間が、契約一時金一〇〇〇万円、ランニングロイヤルティ出荷額の六パーセント(最低保証額五〇〇〇万円)、同年二月一日から同六一年一月三一日までが、契約一時金一〇〇〇万円、ランニングロイヤルティ出荷額の七パーセント(最低保証額五〇〇〇万円)である。ところで、被告らの本件標章の使用態様、事業規模等を考慮すると、被告らに対するライセンス料は、右訴外会社に対する三年分の契約一時金及び六パーセントを越えるランニングロイヤルティ料の合計額に相当するものというべきである。そうすると、被告らに対する原告表示の使用に対し通常受けるべき金銭の額は、前述の額を下回ることはない。
(三) 原告両名は、その間の原告表示のライセンス契約において、原告エンタプライズが第三者に対して原告表示の再使用許諾をした場合には、その許諾料の六〇パーセントを原告カンパニーが、四〇パーセントを原告エンタプライズが取得する旨合意している。原告らの被告らに対する損害賠償請求権も、右の分配に準ずるのが相当である。
6 よって、原告らは、本件著作権及び不正競争防止法一条ノ二第一項所定の損害賠償請求権に基づき、被告らに対し、請求の趣旨のとおりの損害金及びこれらに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合により遅延損害金の支払いを求める。
二 請求の原因に対する認否等
(被告タキヨ商事)
請求の原因1及び2の事実は知らない。同3(一)、4及び5(一)(1)、(二)の事実は否認し、同5(三)の事実は知らない。
(被告ダイキ)
請求の原因1及び2の事実は知らない。同3(二)、4及び5(一)(2)、(二)の事実は否認し、同5(三)の事実は知らない。
(被告タキヨテキスタイル)
被告タキヨテキスタイルは、適式の呼出を受けながら、本件口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書その他の準備書面も提出しない。
第三 証拠関係<省略>
理由
一 原告らの被告タキヨテキスタイルに対する請求について
事実摘示第二、二(被告タキヨテキスタイル)のとおりであるから、被告タキヨテキスタイルは、請求原因事実を明らかに争わないものとして、これを自白したものとみなされる。そして、右請求原因事実によれば、原告らの被告タキヨテキスタイルに対する請求は、理由があるから、これを認容すべきである。
二 原告らの被告テキスタイル商事に対する請求について
被告テキスタイル商事は、請求原因事実を明らかに争わないので、これを自白したものとみなされる。そして、右請求原因事実によれば、原告らの被告テキスタイル商事に対する請求は、理由があるから、これを認容すべきである。
三 原告らの被告タキヨ商事に対する請求について(事実関係については、後記被告ダイキに対する請求に関するものも、一部併せて認定する。)
1 原告らと被告タキヨ商事との間においては、成立に争いがなく、原告らと被告ダイキとの間においては、アメリカ合衆国著作権局登録官作成名義部分はその方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから、真正に成立したものと推定され、その余の部分は、右部分及び<証拠>によれば、請求の原因1(一)及び2の事実を認定することができる。
2(一) 原告らと被告タキヨ商事との間において成立に争いのない<証拠>によれば、被告タキヨテキスタイルは、昭和五八年三月ころから同六〇年七月ころまでの間に、被告ダイキ及び同テキスタイル商事の委託を受けて、衣類八万二二五〇枚に、一枚につき七〇円の加工代金で本件標章をプリント加工し、また、渡辺商店等に対し、自ら本件標章を付した衣類一万五七七九枚を一枚につき五二〇円で販売した事実(以下「本件行為」という。)を認定することができる。
(二) <証拠>によれば、次の事実を認定することができる。
(1) 被告タキヨテキスタイルが本件行為を行った当時、多田輝治(以下「輝治」という。)は、被告タキヨ商事及び被告タキヨテキスタイル両社の取締役を兼任し、両社の実質上の経営者であった。山沢謙二も、両社の取締役を兼任し、両社の経営に関し輝治を補佐していた。また、当時被告タキヨテキスタイルの代表取締役であった多田治寿(以下「治寿」という。)は、輝治の長男で、タキヨ商事の取締役を兼任していた。更に、輝治の兄である多田正治(以下「正治」という。)は、当時被告タキヨ商事の代表取締役であった。
(2) 被告タキヨ商事は、昭和五四年ころ、福井市日光町に工場及び事務所を設けたが、その後、輝治は、本件行為を行うことを企て、これを行う会社として、治寿らとともに被告タキヨテキスタイルを設立し、同社の本店所在地を、被告タキヨ商事の右工場所在地としたうえ、必要な設備を右工場内に備え付け、ここで本件行為を行った。また、被告タキヨ商事の売上代金は、手形による支払がほとんどであったが、右手形の一部は、正治がこれを割り引いて現金化した。更に、被告タキヨテキスタイルが手形の不渡りを出した後、被告タキヨ商事の納品伝票が用いられて、本件行為が継続された。
(二) 右認定事実を総合すれば、被告タキヨテキスタイルは、被告タキヨ商事の工場を借り受けて本件行為を行っており、その際、被告タキヨ商事の代表者又は担当者は、本件行為が行われることを知りながら、あえて工場を貸渡し、自らも加担して本件行為を行ったものであって、本件行為を共謀したか、又は幇助したものと認められる。
(三) 被告タキヨ商事代表者輝治は、その本人尋問の結果中、被告タキヨ商事は本件行為に関与していない旨供述するが、前(一)の認定事実に照らせば、右供述は、直ちに採用することができない。
3 <証拠>により認められる原告表示と本件標章とを対比すると、本件標章の「ミッキーマウス」、「ミニーマウス」、「ドナルド・ダック」、「グーフィー」のキャラクター及び「MICKEY MOUSE」の表示は、それぞれ原告表示の各キャラクター及び「MICKEY MOUSE」の表示に類似することが明らかである。また、右認定の事実及び前三1認定の事実を総合すれば、被告タキヨ商事及び同タキヨテキスタイルの本件行為は、少なくとも右被告らと原告らとの間に同一の商品化事業を営むグループに属する関係が存するものと誤信されるものであることが認められる。そして、右混同の事実が認められる以上、特段の事情がない限り、原告らは、その営業上の利益を害されたものというべきところ、右特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
4 以上の認定判断によれば、被告タキヨ商事は、同タキヨテキスタイルと共同して、本件行為をしたものであるが、その行為は、不正競争防止法一条一項一号に該当するものというべきところ、前認定の事実を総合すれば、同被告らは、少なくとも過失により本件行為をしたものと認定することができる。したがって、被告タキヨ商事は、被告タキヨテキスタイルと連帯して、原告らに対し、その損害を賠償すべき義務があるものというべきである。
5 そこで、原告らの損害について検討するに、原告らは、まず、右被告らが本件行為により受けた利益の額を損害の額として主張するところ、本件のような事案においては、侵害行為により受けた利益の額をもって損害の額と推定することができるものと解される。ところで、前認定の事実によれば、右被告らは、衣類一枚につき七〇円の加工代金で本件標章をプリント加工したものであり、そして、<証拠>によれば、右加工代金のうち、原料、型代が二〇パーセント、営業経費が一〇パーセント、償却費が五パーセント占めていることが認められ、以上の事実によれば、右プリント加工による利益の額は、衣類一枚につき右七〇円から右経費に当たる額を控除した四五・五円であると認められる。この点に関して、被告タキヨ商事代表者輝治は、その本人尋問の結果中、プリント加工による利益の額は、右の額より少額である旨供述するが、右供述を裏付けるに足りる的確なる証拠もないから、右供述部分は、右認定を覆すに足りない。
次に、前認定の事実によれば、右被告らは、本件標章を付した衣類を一枚につき五二〇円で販売したものであるところ、原告らは、その利益の額は、販売一枚当たり一九二円である旨主張するので、審案するに、<証拠>によれば、右被告らは、本件標章をプリント加工する前のティーシャツ類を一枚につき三二八円で仕入れ、これに本件標章をプリント加工したうえ、右のとおり一枚につき五二〇円で販売していたことが認められ、右認定の事実によると、販売額から原料代金額を控除した額が一九二円であることは認められるが、諸経費を認定することのできる証拠がないから、結局、右販売による利益の額を認定することができず、したがって、原告らの右主張は、採用することができない。そこで、原告らは、自己が受けた損害の額として原告表示の使用に対し通常受けるべき金銭の額についても主張するので、検討するに、<証拠>によれば、原告らは、訴外亀岡株式会社から、原告表示使用のライセンス料として、請求の原因5(二)のとおり、契約一時金及びランニングロイヤルティ出荷額の六パーセント又は七パーセントを受けていることが認められるところ、両者間の契約書によるも、右契約一時金がどのような性質の金員であるのか、例えば、契約一時金は、単に原告表示の使用に対する対価にとどまらないのではないか、といった点が必ずしも明らかではないので、右認定のランニングロイヤルティ出荷額の六パーセント、つまり、原告表示を使用した商品の販売額の六パーセントの額をもって、原告表示の使用に対し通常受けるべき金銭の額であると認めるのが相当である。
なお、<証拠>によれば、原告両名は、その間の原告表示のライセンス契約において、原告エンタプライズが第三者に対して原告表示の再使用許諾をした場合には、その許諾料の六〇パーセントを原告カンパニーが、四〇パーセントを原告エンタプライズが取得する旨合意していることが認められ、右認定の事実によると、原告らは、右被告らの本件行為により、右割合による損害を被ったものというべきであるから、原告らの被った損害は、右割合によって算定するのが相当である。
以上によれば、被告タキヨ商事が賠償すべき損害の額は、次の計算式のとおり、原告カンパニーに対し、二五四万〇八〇七円、原告エンタプライズに対し、一六九万三八七一円となる。
(計算式)
原告らの全損害
{45.5円(加工による1枚当たりの利益)×8万2250(加工枚数)}+{520円(販売価格)×1万5779(販売枚数)×6%(使用料相当額)}=423万4679.8円
原告カンパニーの損害
423万4679.8円×60%=254万0807.88円
原告エンタプライズの損害
423万4679.8円×40%=169万3871.92円
四 原告らの被告ダイキに対する請求について
1 その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから、<証拠>によれば、被告ダイキは、昭和五八年一月ころから同六〇年八月ころまでの間に、被告テキスタイル商事等に対し、本件標章を付した衣類一〇万八七六〇枚を一枚につき六〇〇円で販売したことを認定することができる。
2 ところで、前三の認定判断によれば、(1)原告表示は、昭和五八年当時、既に原告らの商品表示として周知のものとなっていたこと、(2)本件標章は、原告表示と類似するものであること、(3)被告ダイキの右1の行為は、少なくとも右被告らと原告らとの間に同一の商品化事業を営むグループに属する関係が存するものと誤信されるものであること、(4)原告らは、被告ダイキの行為により営業上の利益を害されたものであることが認められる。そして、<証拠>によれば、被告ダイキは、少なくとも過失により右1の行為をしたものと認められる。
3 以上によれば、被告ダイキは、過失により、不正競争防止法一条一項一号に該当する行為としたものであって、営業上の利益を害された原告らに対し、その損害の賠償をすべき義務があるものといわなければならない。
そこで、原告らが被った損害の額について検討するに、原告らは、まず、被告ダイキがその侵害行為により受けた利益の額を損害の額として主張するが、右利益の額を認めるに足りる証拠はない。次に、原告らは、自己が受けた損害の額として原告表示の使用に対し通常受けるべき金銭の額を主張するので、審案するに、前三の認定によれば、原告表示に対し通常受けるべき金銭の額は、原告表示を使用した商品の販売額の六パーセントの額が相当と認められる。また、前三の認定によれば、原告らの被った損害は、原告カンパニーが六〇パーセント、原告エンタプライズが四〇パーセントの割合で算定するのが相当である。
そうすると、被告ダイキが賠償すべき損害の額は、次の計算式のとおり、原告カンパニーに対し、二三四万九二一六円、原告エンタプライズに対し、一五六万六一四四円となる。
(計算式)
原告らの全損害
600円(販売価格)×10万8760(販売枚数)×6%(使用料相当額)=391万5360円
原告カンパニーの損害
391万5360円×60%=234万9216円
原告エンタプライズの損害
391万5360円×40%=156万6144円
五 結論
以上のとおりであるから、原告らの請求は、不正競争防止法一条ノ二の規定に基づく損害賠償として、原告カンパニーは、被告タキヨ商事に対し二五四万〇八〇七円、同タキヨテキスタイルに対し四八〇万円、同ダイキに対し二三四万九二一六円、同テキスタイル商事に対し三〇〇万円、原告エンタプライズは、被告タキヨ商事に対し一六九万三八七一円、同タキヨテキスタイルに対し三二〇万円、同ダイキに対し一五六万六一四四円、同テキスタイル商事に対し二〇〇万円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな被告タキヨ商事については昭和六一年五月三一日、同タキヨテキスタイルについては同月三〇日、同ダイキについては同月二九日、同テキスタイル商事については同月三〇日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行宣言について同法一九六条一項の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 設楽隆一 裁判官 長沢幸男)